arc の日記

はてなダイアリーから引っ越してきました。さらに新しい記事は https://junkato.jp/ja/blog/ で書いています。

MIT原子力理工学部による「使用済み燃料プール」の解説

本記事は7つ目の翻訳記事で、元記事は日本時間16日午後1時20分に公開されたものです。前6つと同様にGoogle Docs上で作業が行われました。下訳を作成された @yoshi_mit さん、校正してくださった @LunarModule7 さん、 @PetitDarling さん、ありがとうございます。

更新履歴
  • 11/03/25 16:30 @pie_ereさんの指摘を受け、該当箇所を修正

注意: この記事は福島第一原発の最新の状態を解説したものではありません。福島第一原発事故関連で日本語の良質な記事・ニュースソースをご覧ください。また、この記事のほかにも様々な記事が翻訳済みです。翻訳記事の一覧はMIT原子力理工学部による原子力発電の解説(翻訳)にあります。

目次

「使用済み燃料プール」とは

使用済み燃料とは、原子炉の運転に利用された後の燃料のことです。この燃料は、固体ペレットで燃料棒(訳注:燃料被覆管)に格納されているというところは未使用の燃料と似ています。唯一の違いは、使用済み燃料には核分裂生成物とアクチニドが含まれているということです。アクチニドはプルトニウムなどを含み(訳注:アクチニドは15種類の放射性元素の総称放射能があるため、遮蔽される必要があります。ちょうど運転停止中の燃料棒のように、使用済み燃料は崩壊熱を生成します。これは、核分裂生成物とアクチニドからの大半の崩壊放射能が、燃料の中で貯まって熱エネルギー(つまり、熱)に変換されるためです。その結果、使用済み燃料は冷却される必要がありますが、わずかな熱しか生成しないため、12時間以内に運転停止した原子炉内の燃料と比較すれば、冷却の程度はずっと低いレベルとなります。まとめると、(1) 崩壊熱が減少するまで燃料を冷却させ、(2) 放出される放射線を遮蔽する、ことを目的に、使用済み燃料は一定期間、保管されます。

これらの目的を達成するために、使用済み燃料は、水の入ったプールと、空気で燃料棒を冷却する大きなキャスク(訳注:キャスクは前の記事にも出てきました。水を張っていない貯蔵区域のことを表す専門用語です。)の中に保管されます。プールはしばしば原子炉の近く(BWR Mark-1の格納容器を格納する構造体があるフロアの上階)に設置されます。プールはとても大きくて、40フィートもの深さになることが多く、設計によってはさらに深い場合もあります。プールは、ステンレス鋼に骨組みされた厚いコンクリートでできています。使用済み燃料は、まとめてプールの底のラックに置かれるため、燃料頭部から水面までは約30フィートの水に覆われます。さらに、中性子の連鎖反応を絶対に開始させないために、ホウ素を含んだプレートで分離されることもよくあります。燃料内部の利用可能なウランは劣化しているため、そのような反応が起きる可能性はずっと小さくなっています。プール内の水は、使用済み燃料を冷やすのに十分であり、プール内の熱交換器を通じて熱が排出されるため、プールはほぼ一定の平均温度に保たれるはずです。水の深さもまた、使用済み燃料から放出される放射線を、人間がプール周辺で安全に作業可能なレベルまで遮蔽することを保証しています。

通常の運転環境では、使用済み燃料は、プールの中で永遠に保管することが可能です。余剰の崩壊熱を取り除くために冷却システムが設置され、動作しており、同時に水も効率的に放射線を遮蔽する役割を果たしています。プールに保管可能な燃料の量はプール自体の容量によって変わりますが、たいていの使用済み燃料プールは、多数の炉心を一度に保管できるように設計されます。

原子炉が停止される燃料補充作業の間は、原子炉と使用済み燃料を結ぶ全ての区画が放射線遮蔽のために水で満たされ、燃料は一単位ずつ原子炉から使用済み燃料プールへ移動され、そこに整列させられます。燃料補充は12ヶ月から18ヶ月ごとに行われ、1度の燃料補充のための運転停止の間、最大で3分の1の炉心内の燃料が置き換えられます。作業員の放射線被曝を避けるために、全ての操作は、水の中のクレーンと特別な装置を用いて遠隔から行われます。

使用済み燃料は、使用済み燃料の容量と規制に応じて、通常は数年間、使用済み燃料プールに保管されます。その期間の後、使用済み燃料は、原子炉の建屋の外にある場所に設置されたコンクリート製のキャスクの中で、通常は乾燥して保管されます。

もし、プールに水漏れや熱交換器の故障があった場合、プール温度は上昇します。これが十分長い間続くと、水は蒸発し始める可能性があります。さらに蒸発が続くと、プールの水位が燃料棒の頭部より下がり、燃料棒が水面上にさらされる可能性があります。空気では使用済み燃料から十分に排熱できないため、燃料棒が加熱を始めて、問題を生じます。燃料棒が十分に熱くなると、ジルコニウム被覆が水蒸気と空気で酸化して、水素を放出し、そこに引火することがあります。これが一度起こると被覆が破れてしまう可能性が高く、ヨウ素セシウムストロンチウムといった放射能を持つ核分裂生成物が発生します。注意すべきは、それぞれの事象(冷却システムの故障、プールの水の蒸発、燃料棒の空気中での異常加熱、ジルコニウム酸化反応)が事故につながるには、これらの事象が十分に長く継続する必要があるため、結果的に深刻な事態に至る確率はかなり低くなっています。

仮に起こった場合にもっとも危険なことは、使用済み燃料プールの周囲に頑丈な格納構造(原子炉建屋のような構造)がないことです。使用済み燃料プール自体はとても頑丈な構造である一方で、各プールの上の屋根はそれほど強くなく、破壊される可能性があります。すなわち、プールの表面が外部環境に晒される可能性があります。水が燃料を覆っている限り、これは外部環境に直接の脅威になりませんが、仮に火災が起きると、核分裂生成物が大気中に拡散される可能性を防げません。しかし、水位が燃料より高い位置に保たれていれば、大規模な拡散の脅威は低くなります。

MIT原子力理工学部による18、19日夜時点での状況解説

本記事は6つ目の翻訳記事で、元記事は2つあり、それぞれ日本時間18日午後7時19分と20日午前3時36分に公開されたものです。前5つと同様にGoogle Docs上[1][2]で作業が行われました。下訳を作成された @masae_i さんと @yoshi_mit さん、校正してくださった @LunarModule7 さん、ありがとうございます。

注意: この記事は福島第一原発の最新の状態を解説したものではありません。福島第一原発事故関連で日本語の良質な記事・ニュースソースをご覧ください。また、この記事のほかにも様々な記事が翻訳済みです。翻訳記事の一覧はMIT原子力理工学部による原子力発電の解説(翻訳)にあります。

目次

18日夜時点での状況解説

3号機と4号機の使用済み核燃料プールへ、依然として放水作業が続いています。上空からの視察では4号機のプールには水が見られたので、3号機のプールを冷却するよう、ひとまず焦点が当てられています。ヘリコプターを使い、上空からプールに水を落下させる試みは、大部分では成功とはいえませんでした。しかし一方で、航空機の消火に使われる、自衛隊の消防車による放水活動は、ある程度成功しています。緊急消防援助隊東京消防庁ハイパーレスキュー隊が現場に到着して、およそ2時間、任務を指揮しており、その間、7〜8分間放水し、蒸気が消えるのを待ち、再び放水を繰り返す作業をしています。

東京電力は外部電源を復旧させるため、施設から1.5kmのケーブルをひいています。これによって1号機と2号機における、原子炉の緊急冷却装置に電源が供給されるものと思われます。

5号機と6号機の使用済み核燃料プールを冷却するため、非常用ディーゼル発電機が接続されました。日本時間午後4時、これらのプールの温度は65.5℃と62℃にまで上昇しています。

両原子炉にある使用済み核燃料の中央プールでは、上空からの視察が行われています。中央プールには、施設で使われた燃料のうちの60%と、乾式キャスク貯蔵区域があります。中央プールの水位は「安全である」とされ、乾式キャスク貯蔵区域では「異常事態」を示す兆候は全く見られなかったということです。今後、これらの区画について、より詳細に検査することが予定されています。

日本政府は全国のモニタリングポストにおける、放射線測定値の結果を公表しました。データはこちらからご覧になれます。(訳注:最新情報は文部科学省の公式サイトからどうぞ。また、有志の方々の手で非公式・放射性物質モニタリングポストMAPというものが作成され、公開されています。)

これらの測定値は自然放射線を超過した分の放射線値を示しているため、場所によっては低い数値が出ている場所もあります。モニタリングポスト32番における高い測定値は、格納容器の弁を操作した結果と、同時に生じた火災が、放射性物質を内陸に運んだことによると考えられます。事故が起きてから今までの気象条件は、おおむね放射性粒子を海の方に掃き出すような傾向にありました。

これらの放射線測定値と現在進行している事態をふまえた結果として、経済産業省原子力安全・保安院は、国際的な評価基準のINES(訳注:国際原子力事象評価尺度)に基づいて、深刻さを表す評価を「レベル5」に引き上げました。これはスリーマイル島原発での事故と同じレベルで、チェルノブイリでの事故と比べて2段階低いレベルです。

情報源: ANS Nuclear Café、World Nuclear News、IAEA文部科学省

注: 以前、当サイト(翻訳元、MITのサイト)で六号機の使用済み核燃料プールの温度は摂氏84度だと報告しました。これは誤植でした。申し訳ございません。

19日夜時点での状況解説

枝野幸男官房長官は3月19日の記者会見で、福島第一原子力発電所の原子炉1、2、3号機への海水注入が続いていると述べました。

4号機の使用済み燃料プールへの散水作業の準備が進められ、原子炉3号機の使用済み燃料プールには無人屈折放水塔車が7時間に渡り1500ガロン以上を散水した、と枝野長官は述べました。さらに、3号機の燃料プールの状況は安定に向かっているとの考えを示しました。

さらに、5号機と6号機では、発電機の設置により原子炉の冷却能力が一部回復したと、付け加えました。

枝野長官は、福島第一原子力発電所の外部電力を回復する抜本的な解決が進展しており、1、2号機は本日、3号機は日曜には電力が回復する見込みだ、と述べました。

枝野長官は、追加設備が現地に輸送中であり、プールに冷却水を送る他の手段も検討中であると述べました。

福島第一の西門における放射線量は、3月18日午後7時10分(EDT─訳注:日本時間19日午前8時10分)時点で一時間あたり83ミリシーベルトだったが午後8時(EDT─訳注:日本時間19日午前9時)時点で1時間あたり36ミリシーベルトへ下がったと、枝野長官は述べました。放射能レベルは3月16日から減少しています。原子炉付近の放射能レベルは、通常より高いものの、作業員が現地で復旧作業を継続できる範囲だと、IAEAは述べました。

IAEAによると、東京と30kmゾーンの外における放射線量は、政府による保護措置が必要になるレベルよりもずっと低いままということです。

福島第一原子力発電所の全ての原子炉は、冷温停止しています。(日本原子力産業協会のWebサイト参照)

福島県と近隣地域からの一部の食品では、国の基準を越える放射線レベルが確認されました。日本原子力産業協会によると、このレベルの放射線は、福島県の牛乳の複数のサンプル、隣接する茨城県のホウレンソウの6つのサンプルから検出されました。もしこれらの食品を1年中食べ続けた場合、放射線の総量は1回のCTスキャンに相当すると、枝野長官は述べました。

これらの地域では、食品の監視強化が続いています。

MIT原子力理工学部による「崩壊熱」についての解説

本記事は4つ目の翻訳記事で、元記事は日本時間16日午後4時1分に公開されたものです。前3つと同様にGoogle Docs上で作業が行われました。下訳を作成された @tyamadajp さん、ありがとうございます。

注意: この記事は福島第一原発の最新の状態を解説したものではありません。福島第一原発事故関連で日本語の良質な記事・ニュースソースをご覧ください。また、この記事のほかにも様々な記事が翻訳済みです。翻訳記事の一覧はMIT原子力理工学部による原子力発電の解説(翻訳)にあります。

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原発における崩壊熱の意味

原発の発電は、加熱により蒸気を発生させ発電機のタービンを回すという点で従来の火力発電と同じです。違いは熱の生成方法にあります。火力発電所(石炭)であれば石炭を燃やし蒸気発生用のボイラーを加熱しますが、原発では核分裂を利用します。福島の原発は沸騰水型原子炉(BWR - Boilng Water Reactor)と呼ばれ、反応炉のコア(訳注:燃料棒集合体を集積した原子炉の中核部分)で直接蒸気を生成し、それがタービンを回します。

稼動中の炉の熱の大半は、ウラニウム235(U-235)やプルトニウム-239(P-239)のような核分裂同位体核分裂によって生じます。中性子がこれらの同位体を分裂させると、巨大なエネルギーが解放されます。このエネルギーは燃料、被覆管(訳注:燃料を隔離・保護するケーシング。詳しくは最初の記事をご覧ください。)、冷却材、そして構造物に吸収されます。平均では約80%の核分裂エネルギーが二つかそれ以上の数の核分裂生成物の粒子に(訳注:運動エネルギーとして)与えられ、そして、衝突距離が短いことから燃料中に留まります(訳注:衝突し、また熱を生む)。残りのエネルギーは中性子や各種の放射線を形成します。

制御棒が差し込まれ炉が停止するSCRAM状態(訳注:緊急停止のこと。諸説あるが、Safety Control Rod Axe Man = 制御不全の際に斧でロープを切断して制御棒を叩き込むロープカット役などに由来)では、核分裂は事実上停止し、出力は1秒経つ間に最大出力の7%程度にまで激減します。出力がゼロにまで落ちないのは、それまでの燃料の核分裂で生成された放射性同位体があるためです。これらの同位体核分裂生成物とも呼ばれ、崩壊を続ける過程で様々な放射線を発生させます。ガンマ線(訳注:高エネルギーの電磁波)、ベータ粒子(訳注:電子・陽電子、アルファ粒子(訳注:陽子2、中性子2からなるヘリウム4の原子核部分)などです。この崩壊による放射線のエネルギーも燃料に吸収され熱を生みます。この熱のことを崩壊熱と呼びます。

崩壊が進めば進むほどこれら同位体は安定状態となり放射を止めるので、最終的には崩壊熱を生まなくなります。コアの加熱を防ぐためには、この崩壊熱の生成速度と同じ速さで冷却する必要があります。つまり、コア部分に(冷却)水を通し、熱を持ち去るのです。原子炉の各種の冷却装置はまさにこのためのものです。しかし、福島原発では地震に続く津波によってこれらシステムが正常稼動できなくなり、この崩壊熱の除去が困難になりました。

原子炉停止後の崩壊熱による熱量はどれくらい発生するのでしょうか?この計算方法はよく知られており、以下の図表が福島原発(訳注:福島第一原発のこと。原文では第一原子力発電所1//2/3号機をDaiichi-1/2/3と間違えて呼んでいる。図表も同じ。)の1-3号機についての推定値となります。地震発生(訳注:つまり原子炉緊急停止)からの経過時間に伴う発生熱量の推移です。実測ではありませんが、原子炉停止後の崩壊熱を計算する上で一般的なモデルに基づくものです。

図:地震直後のSCRAM(制御棒の完全挿入による緊急停止)からプロットした、経過時間(横軸)に対する崩壊熱量(縦軸)の推定グラフ。

表:各原子炉でのSCRAMの1秒後から1年後までの崩壊熱の遷移を推定した表。

日時(福島での現地時間) 1号機の崩壊熱(MW) 2、3号機の崩壊熱(MW) 原子炉運転出力に対する比率
3/11/11 2:46 PM 92.0 156.8 6.60%
3/11/11 2:47 PM 44.7 76.2 3.21%
3/11/11 2:48 PM 36.9 62.8 2.64%
3/11/11 2:50 PM 31.4 53.5 2.25%
3/11/11 3:00 PM 24.1 41.0 1.73%
3/11/11 3:30 PM 19.1 32.5 1.37%
3/11/11 8:00 PM 12.8 21.9 0.92%
3/12/11 8:00 AM 10.1 17.3 0.73%
3/12/11 8:00 PM 9.1 15.5 0.65%
3/13/11 8.5 14.5 0.61%
3/14/11 7.8 13.2 0.56%
3/16/11 6.9 11.8 0.50%
3/20/11 6.1 10.5 0.44%
4/1/11 5.2 8.8 0.37%
7/1/11 3.7 6.3 0.26%
10/1/11 3.3 5.6 0.23%
3/11/12 2.9 5.0 0.21%

1号機の定格は460MWe(訳注:MW electrical、原子炉の熱生成量ではなく、それによって発電される電気量を示す。)で、2、3号機は784MWeです。しかし、様々な熱力学や現実の制約から、これはわずか33%程度の発電効率での発電量となります。つまり、熱的な出力(MWth=MW thermal)ではこれら定格の3倍程度となり、これが除去しなくてはならない真の熱量です。上の図表はこの熱量を記載しています。

崩壊熱は1日経過後には運転時出力の2%を切りますが、そこからの減少ペースは非常に緩やかです。そして1年後には0.2%程となります。この崩壊熱が除去されない場合、核燃料は加熱を始め、ジルカロイ製の被覆管の急速な酸化(〜1200℃)、(同合金の)溶融(〜1850℃)、そして燃料自体の溶融(〜2400-2860℃)などの望ましくない事態が発生することになります。

MIT原子力理工学部による「最悪のシナリオ」予測に関するコメントと解説

本記事は5つ目の翻訳記事で、元記事は日本時間18日午前0時55分に公開されたものです。前4つと同様にGoogle Docs上で作業が行われました。翻訳に協力してくださった toshiki.saito さん、 @shigeomix さん、 @hoshimi_etoile さん、 @masae_i さん、 @LunarModule7 さん、ありがとうございます。

更新履歴

注意: この記事は福島第一原発の最新の状態を解説したものではありません。福島第一原発事故関連で日本語の良質な記事・ニュースソースをご覧ください。また、この記事のほかにも様々な記事が翻訳済みです。翻訳記事の一覧はMIT原子力理工学部による原子力発電の解説(翻訳)にあります。

目次

前書き

mitnse.comのブログは、最悪の事態のシナリオに関する膨大な数の問い合わせをもらいました。これは、科学的価値に幅のある玉石混交のシナリオがメディアをにぎわす現状を鑑みれば、とくに不思議なことではありません。mitnse.comの目的は我々が持ちうる最大限の情報をもとに啓蒙活動を行うことなので、我々自身のシナリオを提示することは控えようと考えています。しかし、ここではいくつかの予測シナリオに用いられている用語について注釈を施し、また、政府機関や科学組織がどのような手法を用いて、国民に知らせるべき対応策を決定しているかを説明したいと思います。(訳注:というわけで、これは最悪のシナリオが何なのかについて書かれた記事ではありません。様々なシナリオが様々な人によって語られるなか、科学的に正しいシナリオのベースになっている考え方を事実とともに啓蒙する記事です。)

炉心溶融

炉心溶融メルトダウン)という言葉はジルコニウム合金の被覆管及び酸化ウラン(もしくは3号炉の場合には混合酸化物=MOX)の溶融を示します。これらの2つの構造体は核分裂生成物放出に対する最初の2つの防壁であって、放射性核分裂生成物は通常、燃料ペレット内部の固体、燃料ペレット内部の気体、ペレットから放出されたものの被覆管内部にとどまっている気体、のいずれかの形態で存在します。原子炉が停止された場合、これらの核分裂生成物は崩壊を続け、熱を生成し続けます。この熱の量は最初、初期レートの7%となりますが、熱を放出する同位体が崩壊するに従って減少します。もし崩壊熱が冷却水によって除去されなければ、燃料及び被覆管は加熱していきます。

1200℃を超える温度では、ジルコニウム合金の被覆管で絶えず起きている腐食反応が劇的に加速してしまいます。この反応による生成物には、酸化ジルコニウム(訳注:これに関しては最初の記事を読んでみてください)、水素(これに関しては水素爆発の記事を読んでみてください。)、熱が含まれます。この熱は、腐食反応を加速させるほか、燃料棒の冷却を妨げます。この反応は自己触媒的に進む(訳注:反応の生成物が反応をより推し進める方向に働く)ため、通常、安全系(訳注:安全を保つためのシステム)は被覆管の温度が1200℃に達しないよう大きく余裕を持って作動します。

しかし、スリーマイルアイランド事故のように、各種の障害により、これらの冷却手段が取れない場合、燃料棒は過熱して酸化ウランの融点、2400-2860℃(この数値は燃料棒の形成法、および運転履歴によって異なる)に達してしまいます。この時点で燃料棒はくずれはじめます。燃料棒が液状化してしまうと、崩れながら、したたり、炉心溶融物(溶けた燃料被覆管、燃料ペレット、構造体の混合物)として圧力容器内底部に溜まります。この時点で溶けかかっている燃料や金属被覆に冷却水がかかった場合には、固まるか、破壊されるかして、圧力容器底部に落ちていきます。

同様の状況が使用済み核燃料プールの水冷が行われない場合におこります。しかし、進行速度は(圧力容器内で起こるよりも)遅いものとなります。

構造物の貫通: 過去の経験と実験に基づく知見

(訳注:ここでいう「構造物」は、原子炉容器や原子炉格納容器、原子炉建屋のことを指します。)

燃料棒が2400℃以上になると、それが圧力容器内に損傷を与える可能性が出てきます。圧力容器を形成する鋼鉄の融点はおよそ1500℃です。これに加え、問題の発生している圧力容器は海水の注入でより脆弱になっているかもしれません。海水内に含まれる塩化ナトリウムは鉄の侵食を速めます。とは言え、それが発生するのは通常は数週間から数ヶ月単位で数日ではありません。しかしながら、圧力容器の状態についてはある程度の不確実性が存在します。

幸運なことに、溶融を起こし始めた燃料棒についての事例が存在します。スリーマイルアイランドの事故では、およそ炉心内の50%の燃料棒が溶融していました。その際、圧力容器内部の表面、厚さ9インチのうち、5/8インチが損傷を受けました。炉心溶融物が圧力容器底部に接していた間、約1時間容器は赤熱していました。熱にさらされた圧力容器の鋼鉄は組成変化を起こし、より脆くなります。また圧力容器底部の計測用口も損傷を受けました。しかしながら、溶融された燃料棒は圧力容器内に保たれたのです。

炉心溶融物は(何度か事例がありますが)圧力容器底部をつき抜け格納容器のコンクリート基台に落ち、そこで拡散します。これにより格納容器内で、コンクリート炉心溶融物は非凝縮性ガスを発生させますが、このプロセスはMCCI(molten-core concrete interaction)と呼ばれています。

スリーマイルアイランド事故の教訓から、複数の機関が、炉心溶融物がコンクリート基台に接触するような事態が発生した際、どのような事象が発生するのかを実験する研究を開始しました。これらの実験によりコンクリートの破損程度や、非凝縮性ガスの発生量を見積もれるようになりました。過去20年にわたって、研究は炉心溶融物の水による急冷法を中心に行われていました。

実験は(アルファ線の放出が極めて低く、実験者が防護しやすい)非放射性酸化ウランおよびジルコニウム合金、構造用鉄材を圧力容器内に同じように配置して溶融させることにより行われました。この溶融体はノズルを通して、圧力容器底部に圧力を与えた状態をシミュレートされ、コンクリートの上に投下されました。数時間にもわたる実験はカメラと熱センサーを使って測定され、実験終了後に固化した生成物が調査されました。

実験の結果、水冷を行うことが出来なくなった炉心溶融物、つまり現在、福島第一原発で発生している事象に近い形では、1分間に数ミリの割合で数メーター厚のコンクリートを浸食していくことがわかりました。格納容器内で発生したガスは容器を破損せないために、フィルター越しに排出できる程度に生成されます。

またもし、炉心溶融物を冷やすために水が提供されており原子炉内底部に広がっていれば、コンクリート浸食の割合はさきほどの例に対して5-7%に低減され、さらにガスの生成が抑えられます。炉心溶融物には固体の外皮ができ、この外皮が壊れては再度形成されるため、浸食の速度は下がったり上がったりを繰り返します。

なお、再度申し上げますが、この説明は炉心溶融が取りうる複数のプロセスについて説明を試みたものです。私たちは、現在福島原発の各原子炉内や燃料プール内で起こっているプロセスを予測しようとしているわけではありません。

分析: どのようにして行われるのか、また、その意味するところは何なのか

前段で説明した実験は原子炉内もしくは使用済み核燃料プール内で燃料溶融が発生した際に何が起こるかの検証、もしくは結果の確認、試算のために使われます。また、この試算は一定時間内に原子炉からどれくらいの放射性物質が拡散していくかを見るために利用されます。

この試算には、次のような条件の複雑な相互作用が関係しています。

  • 放出条件: 爆発的なのか、ゆっくりだが継続的なのか?風によって運ばれるのか、煤煙によるのか、水に流れていくのか?地上からどれくらいの高さから放出されるのか?
  • 天候: 原子炉近くおよび他の地帯の天候
  • 地形: 原子炉近くおよび他の地帯の地形

燃料溶融の分析モデルと同様に、これらの分析手法はチェルノブィリ事故の分析データや小規模の実験結果などを含む可能な限りのデータおよび実験の結果を元に検証されます。

試算拡散量はそれらを試算した機関によって使われ、国および地方自治体は、原子炉からの距離に応じて、いつ避難を指示するか、屋内待機を指示するかを決定します。再々申し上げますが、原子炉近くにお住まいの読者のみなさんは政府の発表に注意を払ってください。

放射性物質拡散予測に対する注意: 最近、米国西側に高濃度の放射性物質が飛来するという予測マップがインターネットを中心に出まわっています。この地図にはオーストラリア原子力サービス発行との記述がありますが、そのようなものは発行されていません。この地は、米国原子力規制委員会によって否定されており、現在明らかになっている状況とは全く違う核兵器使用後の予測に近いとの識者の意見が出されました。

MIT原子力理工学部による16日夜時点での状況解説

本記事は3つ目の翻訳記事で、元記事は日本時間16日午後7時59分に公開されたものです。前2つと同様にGoogle Docs上で作業が行われました。下訳を作成された @sayajir さん、校正してくれた @hoshimi_etoile さん、 @_____zoe_____ さん、 toshiki.saito さん、ありがとうございます。

注意: この記事は福島第一原発の最新の状態を解説したものではありません。福島第一原発事故関連で日本語の良質な記事・ニュースソースをご覧ください。また、この記事のほかにも様々な記事が翻訳済みです。翻訳記事の一覧はMIT原子力理工学部による原子力発電の解説(翻訳)にあります。

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最新状況と各施設の現況

情報源: 東京電力、World Nuclear News(訳注:訳者が参考にした情報源ではなく、原文に書かれていた情報源です。)

1号機と2号機

東京電力は、2つの原子炉の炉心について損傷度合いの推定値を発表しました。1号機が70%損傷、2号機が33%損傷。同社はまた、1号機は適切に冷却されたとも述べています。

見通し

現時点においては、追加情報なしにこれらの損傷燃料の最終的な状態を推測することは困難です。しかしながら、炉心が部分溶融しその後冷却されたという唯一の事例であるスリーマイル島においては、燃料塊は完全に圧力容器に閉じ込められていたため、外部への放射線の放出は最小限に留まりました。現在、2号機にどうやって冷却水を提供するか、その最善の方法について検討が行われています。

3号機

日本時間午前8時34分、三号機の屋根から白煙が上がっているのが確認されました。高い放射線レベルのせいで作業員が避難させられていたため、この白煙の原因については究明されていません。放射線レベルは同日早朝より上下動していたものの、白煙が確認された時には300-400mSv/hにまで上昇していました。3号機が新しい局面を迎えたことによって放射線レベルが上昇したのか、その当時の2号機におけるトラブルに起因する数値なのかは不明でした。

見通し

この時点における作業員の被曝量を読むにあたっては、まず放射線障害は概ね累積1000mSvから発生するということを理解して頂きたいと思います。それぞれの被曝量による健康被害に関しては、今後、別途投稿する予定です(訳注:日本語ソースなら @team_nakagawa のほうが即時性が高いのでそちらをご参照されるとよいでしょう)。現時点においては、3号機で見られた白煙については、情報収集段階にあると言えます。枝野官房長官は、3号機の白煙は2号機で見られたものと同様の水蒸気爆発の結果かもしれないとの見解を示していましたが(訳注:会見では水素爆発の可能性も示唆されていた)、これを支持するのにも反論するのにも現在十分な情報が得られていません。

4-6号機

4号機で見られた炎は火災による物と報じられており、4号機の原子炉建屋の屋根を損傷させる小規模な爆発を起こしています。4-6号機における努力は、使用済み核燃料の保管プールに冷却水を供給することに集中しています。地震発生後数日のどこかでこれらの保管プールの温度は上昇し始めました。地震発生当時、点検のために燃料棒を炉心から使用済み核燃料プールに完全に移していたのは、4号機のみでした。5号機と6号機においては、共に1/3程度の燃料棒がプールに移されていました。4号機のプールが残り2機より速く温度が上昇していたことは、このことによって説明がつきます。4号機の保管プールにあった燃料は、総量・熱量ともに大きかったわけです。

見通し

4-6号機の使用済み核燃料プールに保管された燃料棒は、低水準とはいえ崩壊熱によって溶融してしまうのを防ぐため、また、保護するためにも(訳注:酸素を含む気体と絶縁するためにも、という意味です。)冷却水に完全に浸かっている必要があります。冷却水が沸騰すれば、水位は低下してしまい、使用済み核燃料プールが沸騰するほど熱くなり始めた時には、蒸発する分を補うだけの水を注入しなければなりません。4号機の作業員は、3号機からの放射線レベルが作業場に戻れる水準まで十分に下がり次第、陸上から使用済み核燃料プールに水を注入する計画です。4号機のプールは大気圧であるため、ここへの注入作業は、1-3号機の圧力容器に冷却水を注入しようとする作業よりも比較的容易なはずです。

記事掲載後の更新

3/16 11:48am ESTの更新

電気事業連合会の報告によると、4号機の火災の結果、放射線レベルはそれ以前の水準より上昇しています。本日早朝時点で、3号機の外で400mSv/hでしたが、現時点においては施設境界付近で1530μSv/hです。信頼できる情報が得られ次第、随時更新予定です。

MIT原子力理工学部による1、3号炉の水素爆発に関する解説

本記事は2つ目の翻訳記事で、元記事は日本時間3月16日1:51に公開されたものです。Google Docsを使って複数人で協力して和訳・校正しています。今回僕は直接翻訳していません。下訳を作ってくださった @tyamadajp さん、校正してくださった @shun_no_suke さんと @hoshimi_etoile さんに感謝します。翻訳の様子はGoogle Docs上の記事をご覧ください。

注意: この記事は福島第一原発の最新の状態を解説したものではありません。福島第一原発事故関連で日本語の良質な記事・ニュースソースをご覧ください。また、この記事のほかにも様々な記事が翻訳済みです。翻訳記事の一覧はMIT原子力理工学部による原子力発電の解説(翻訳)にあります。

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福島第一原発1号炉および3号炉の水素爆発に関する解説

両者の爆発原因は同じと見られます。原発で冷却系の損失や電源喪失が発生した場合、まず最初に試みることは原子炉の減圧です。これは圧力容器の安全弁を開放することで行います。すると水と水蒸気の混合物が圧力抑制プールに流れ込みます。この型の原子炉では圧力抑制プールは円環状(いわゆるドーナッツ型の技術的表現)に炉を取り巻いています。圧力抑制プールに吹き込まれることで熱い蒸気は液体に凝縮され、容器内の圧力を低いまま維持することができます。

圧力容器内の圧力は水と水蒸気の混合物を放出することで下がりますが、圧力容器内の圧力が低い時のほうが容器内により水を送り込みやすく、こうすることで燃料を容易に冷やし続けることができます。この手順は地震直後はうまく遂行されていました。不幸なことに、地震がとてつもない規模であったため、大規模な津波が同時に発生しました。この津波により設置されていたディーゼル発電機だけでなく電源設備までが停止してしまいました。そして、ポンプを稼動させ熱を除去するための電源がなくなり、圧力容器内の水の温度が上昇を始めたのです。

炉心(訳注:圧力容器内の燃料集合体群。燃料集合体については前の記事をご覧ください。)の水温が上昇し、一部の水が蒸発し始めた結果、ついには燃料棒が水面上に露出しました。燃料棒はジルコニウム合金の層で覆われています。ジルコニウムが高温になり、さらに酸素が存在していると(水蒸気から酸素が生じます)、反応を起こして水素を生成する事があります。水素は濃度が4%を超えた状態で酸素と混合すると極めて発火しやすくなりますが、水蒸気が過剰のときは発火しません。

時間が経過すると、格納容器内の圧力は通常値をはるかに超えてしまいます。格納容器は放射性物質の拡散を止める最大の防壁なので、この破損は何があっても絶対に許されません。このような場合、圧力を制御下に置くため、蒸気の一部を大気に放出することが対応計画で決められています。

この後に何が起こったのかの確証はありませんが、以下の経過で爆発に至ったというのが有力な説明です。まず、蒸気の放出経路として、格納容器の上側、ただし建屋内の空間に通じるパイプが選ばれました。この時点で水素ガスと蒸気は建屋上部において空気と混合しました。この段階では水素と(空中の)酸素は大量の蒸気と混合しているため、まだ爆発しません。しかし、建屋の上部は外部の天候の影響で格納容器内よりもかなり低い温度になっています。蒸気は水へと凝縮し、水素と空気の混合物の濃度が増していきました。これがある程度の時間続いた後、何らかの発火要因(稼働している設備のスパークなど)で爆発が起きた。これが1号、3号炉で起きたのではないかと思われます。これで建屋の上部は著しく破損しました。しかし、格納容器自体には損傷は見られませんでした。

爆発の直後には放射線レベルの一時的な急上昇がありましたが、これは蒸気中の放射性物質によるものです。ジルコニウム合金の被覆管が反応して水素を生成した際、若干の核分裂生成物が放出されました。燃料中の放射性物質の大半はそのまま燃料中に留まるのですが、核分裂生成物の一部に希ガス(キセノン/Xeとクリプトン/Kr)があり、これらは合金層が侵食されるとただちに燃料棒から漏出します。(訳注:段落が長かったのでここで切りました。)

幸いなことに、キセノン・クリプトンともに深刻な放射性物質ではありません。両者とも化学的に安定で、人体や植物と反応しないからです。しかし、この他に若干のヨウ素(I)とセシウム(Cs)が蒸気に混入していた可能性があります。蒸気が建屋内に放出された際、Xe/Krだけでなく、若干のI/Csも漏れていたのでしょう。この結果、建屋の屋根が破損したとき、建屋内にあったこれらの放射性核種も放出されました。これが放射線レベルを急激な上昇させた原因です。高くなった放射線レベルは、その後急速に低下しました。なぜなら、格納容器そのものには損傷がないので放射性核種の放出量が増えず、そして放出された放射性核種が急速に崩壊・拡散したためです。

2号炉の爆発

その後の情報によると、2号炉の格納容器は破損している可能性があります。圧力開放バルブの不調から2号炉の圧力開放が正常に行えず、これが海水の注入および蒸気と水素の排気に問題を起こしました。燃料棒が2度、完全に露出したと報道されていますが、詳報を待っています。

4号炉の火災

地震津波の発生時点では点検のため停止中だった4号炉で火災が起きたと報道されています。その後消火されたとされていますが、これも詳報を待っています。

MIT原子力理工学部による改訂版・福島第一原発事故解説

MIT研究者Dr. Josef Oehmenによる福島第一原発事故解説が反響を呼んでいますが、これを執筆したOehmen氏は原子力の専門家でなく、内容が必ずしも正確でないことが指摘されています。そこで、MITの名前で広がってしまった責任を取るかたちでMIT原子力理工学部(NSE)の学生有志が学部の協力を受けてmitnse.comを立ち上げ、改訂版を公開しました。

これをGoogle Docsを使って複数人で協力して和訳し、さらに注をつけたので、以下に掲載します。翻訳と校正の過程はGoogle Docs上の記事を直接見ればお分かりいただけると思います。

注意: この記事は福島第一原発の最新の状態を解説したものではありません。福島第一原発事故関連で日本語の良質な記事・ニュースソースをご覧ください。また、この記事のほかにも様々な記事が翻訳済みです。翻訳記事の一覧はMIT原子力理工学部による原子力発電の解説(翻訳)にあります。

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前書き

この記事はもともとMorgsatlargeで書かれたものです。記事の内容はMIT原子力理工学部が運営、維持しているmitnse.comに取り込まれました。NSEのメンバーは、元記事を編集してきた他、今後はコメントに返信したり、情報を更新・追記したりしていく予定です。詳しくはmitnse.comをご覧ください。

注意: 元記事のタイトル(Why I am not worried about Japan's nuclear reactors.)は当サイト著者らの意向に沿ったものではないことに注意してください。著者らは状況を注視しており、進展があるごとに事実を紹介していきます。元記事を完全に否定したり消したりしなかったのは、福島原発で起きていることの大まかな背景を説明するための、よい出発点になると考えているからです。

今何が起こっているかを説明する前に、少し基礎をおさらいしましょう。

福島原発の構造について

福島の原発はBoiling Water Reactor (BWR)と呼ばれるタイプで、沸騰した水の蒸気によってタービンを回すことによって発電する仕組みです。核燃料が水を熱し、水が沸騰して蒸気を作り、そして蒸気がタービンを回すことで電気を作ります。蒸気はその後冷やされ、液体の水に戻って、また核燃料で熱せられるのです。この機構はおおむね285℃で作動します。(訳注:下図のように水が液体=青気体=赤の状態で循環しています。)

http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/a/arc_at_dmz/20110317/20110317001522_original.jpg

http://www.tepco.co.jp/nu/knowledge/system/index-j.html

核燃料には酸化ウランが用いられます。酸化ウランは2800℃近い高い融点を持つセラミック燃料で、ペレットと呼ばれる直径高さ共1cm程度の円柱状に焼き固められたものが用いられます。ペレットは一直線にまとめられ、燃料被覆管内に堅く封じられます。(訳注:下図で手のひらに載っている黒いものがペレット、銀色の長い棒が燃料被覆管です。)この燃料被覆管はジルカロイ(ジルコニウム合金)製で、1200℃で溶融します。この管の両端をとじたものが燃料棒と呼ばれています。燃料棒は束ねられ、数百本で一つの炉心となります。(訳注:Wikipediaによれば、正確には、BWRでは燃料棒を百本弱束ねたものが燃料集合体、燃料集合体をさらに数百本束ねたものが炉心と呼ばれるそうです。)

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/ae/Nuclear_fuel_pellets.jpeg

燃料棒 - Wikipedia

ペレット状の固体燃料(酸化物系セラミック複合材)は核分裂の過程で生じる放射性核分裂生成物を閉じ込める一つ目の防壁となります。ジルカロイによる被覆管は放射性燃料を炉の他の部分とわかつ二つ目の防壁です。

そして、炉心は圧力容器の中に配置されます。圧力容器は鋼鉄製の厚い容器で、内部の圧力は作動時7MPa(だいたい1000psi─訳注:重量ポンド毎平方インチ、日本人には馴染みの薄い単位ですね。)程度ですが、事故が起きたときの高圧に耐えられるよう設計されています。この圧力容器は、放射性物質の拡散を防ぐ三つ目の防壁です。

圧力容器、パイプ、冷却剤(水)を含むポンプは、原子炉における主要なループ構造を形成し、格納容器に格納されています。この構造が、放射性物質の拡散を防ぐ四つ目の防壁です。格納容器は空気が漏れないように密閉されており、鋼鉄とコンクリートからなる大変厚い構造体です。この構造は「仮に炉心溶融が起きてしまったとしても炉心を構造内部に完全に永遠に封印する」というたった一つの目的のために設計され、建造され、テストされています。封印をさらに完全なものにするために、格納容器の周囲は大量の厚いコンクリートで覆われており、これは第二の格納容器と呼ばれています。(訳注:五つ目の防壁に相当します。)

これまでにご紹介した主たる格納容器と第二の格納容器は原子炉建屋に格納されています。建屋は外側の殻であり、外界の天候の影響をシャットアウトし中に何もいれないようにしているものです。(これは福島の原発において爆発で損傷を受けた部分です。詳細は後述します。)

核反応の基礎

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ウラン燃料は熱を中性子誘導による核分裂により生み出します。ウラン原子はこの核分裂によってより軽い原子(つまり核分裂生成物)に変化します。この過程で熱とより多くの中性子(原子を構成する粒子の一つ)が放出されます。これらの中性子の一つが別のウラン原子に衝突したとき、その原子が分裂し、より多くの中性子を生成し、これらのプロセスが同様に続いていきます。この一連の過程は原子核連鎖反応と呼ばれています。

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通常の状態、すなわち原子炉がフルパワーで稼働している間は、炉心内部の中性子数が安定し(すなわち同じ個数のままで)、その原子炉は臨界状態となります。

非常に大事なのが、原子炉内部の核燃料は決して核爆弾のように核爆発したりしない、という点です。チェルノブイリでは、圧力が極端に高まり、水素爆発が起きて全ての構造が崩壊したことによって原子炉が爆発し、溶融した炉心の物質が周囲に飛散したのです。注意しておきたいのは、チェルノブイリ原発が周囲への防壁としての格納容器を持っていなかったことです。日本でチェルノブイリのような事態が起きてこなかった、そして、起きないであろう理由について、以下で議論します。

原子核連鎖反応を制御するために、原子炉運転員は制御棒を使います。制御棒は中性子をよく吸収する原子であるホウ素でできています。BWRの通常の操業時、制御棒は臨界状態での連鎖反応を維持するために使われます。また、制御棒は原子炉を止める、すなわちパワー100%の状態からパワー7%の状態(余熱、すなわち崩壊熱)まで落とすのにも用いられます。

余熱は核分裂生成物の放射性崩壊により生じます。放射性崩壊とは、核分裂生成物が放射線アルファ線、ベーター線、ガンマ線中性子線)を放出しながら安定化する過程のことをいいます。原子炉内部では、セシウムヨウ素を含む多くの核分裂生成物が生じます。余熱は、原子炉停止後から時間をかけて冷やして取り除かなくてはなりません。この冷却システムは、燃料棒がオーバーヒートすることによって、放射性物質の漏洩に対する防壁として働かなくなるのを防ぐ役割を担っています。原子炉内部の崩壊熱を取り除く冷却システムを維持することは、津波の被害をうけた日本の原子炉において即座になされなければならない課題です。

これらの核分裂生成物の多くがものすごい速さで熱を発生して崩壊していきます。たとえば「R-A-D-I-O-N-U-C-L-I-D-E」(放射性核種)と紙に書きつけている間にも、それらは無害になります。セシウムヨウ素ストロンチウム、アルゴンといった他の物はよりゆっくり崩壊します。(訳注:これが、原子炉の外でセシウムヨウ素ばかりが検出されている=それ以外の重い生成物が検出されない理由です。ものすごい速さで崩壊する原子は原子炉の外に出る前に崩壊してしまうため、観測されません。)

2011年3月12日の福島で起きたこと

主な事実は次のようにまとめられます。日本を襲った地震原発建設時に想定された最も酷い地震よりも数倍強いものでした。(マグニチュードは対数的に効いてきます;例えば8.2と今回の8.9の差は0.7倍ではなく5倍です訳注:元記事の誤りと思われます。単純に差を取ると8.9-8.2=0.7ですが、地震が及ぼすエネルギーの差を得るには10の累乗を計算する必要があります。元記事は10の0.7乗を計算して約5を得ているようですが、正しくは10の0.7×1.5乗を計算する必要があり、エネルギー比は11.2201…です。詳しくはWikipediaの記事をどうぞ。

地震が襲った時、原子炉はすべて自動的に停止しました。地震が起きて数秒以内に制御棒が炉心に挿入され、核分裂連鎖反応は止まりました。いまのところ、冷却システムによって通常の稼働条件下での全出力熱負荷の約7%にあたる残留熱を取り除く必要があります。

地震により原子炉の外部電力供給が破壊されました。これは外部電源喪失と呼ばれ、原発にとって対応が難しい事故です。原子炉とそのバックアップシステムはこの種の事故に対応するために、非常用電源システムを持つことで冷却ポンプの動作を保つように設計されています。外部電源を喪失した場合、もちろん発電所は停止していますので、発電所自ら発電して冷却システムに給電することはできません。つまり冷却ポンプが使えなくなってしまうのです。

最初の1時間の間に、多重の非常用ディーゼル発電機からなる最初の一組が稼働し、必要な電気を供給しました。しかしながら、史上最大規模の津波によってこれらのディーゼル発電機が水浸しにしなり、故障しました。(訳注:このあたりの流れについては当記事に2011/3/17 16:28についたs.yさんのコメントが分かりやすいです。)

原発設計の基本的な考え方の一つは多層防護です。つまり、いくつかのシステムが落ちても、深刻な大事故に耐えうるように設計されています。一度にすべてのディーゼル発電機を壊す大規模な津波はそのような一つの想定ですが、3/11の津波はさらにそういった想定を上回るものでした。こんなこともあろうかと、技術者はさらなる防衛線を用意していました。原子炉のシステム全体を、密閉可能なように設計した格納容器の中に配置したのです。

今回、ディーゼル発電機が津波によって故障した際、原子炉運転員は非常用バッテリ電力に切り替えました。このバッテリは炉心を8時間にわたって冷却する電力を供給するバックアップシステムのひとつであり、そしてバッテリは役目を果たしました。

8時間後、バッテリが干上がり、残留熱をそれ以上除去することができなくなりました。この時点で運転員は冷却損失時のために用意された緊急手順にとりかかりました。これらの手順は、多層防護の考え方に沿って予め定められています。驚くかもしれませんが、これらの緊急手順は運転員の日々の訓練の一部に組み込まれています。

この時点で、人々は原子炉内部で炉心溶融が起きる可能性について議論を始めました。もし冷却システムが回復しなければ炉心は数日後に溶融し、格納容器の中に溶け出すと予想されるからです。「炉心溶融」という言葉は曖昧な定義を持ちます。燃料破壊という言葉のほうが燃料棒の被覆管(ジルコニウム)が欠損したことを表すには適しているでしょう。これは燃料が溶融する以前に起こり、機械的破損、化学的破損ないしは熱破損が原因となります。(過度の圧力、過度の酸化、過度の熱)。

さて、実際にはこの時点で起きている現象は溶融からはほど遠く、主要な課題は

  • 発熱を続けている炉を管理下に置くこと
  • そして、可能な限り長く燃料被覆管を無傷に保ち、中から放射性物質が漏れ出さないようにすること

でした。

炉心の冷却は重要なことなので、原子炉は多くの独立した、複数の冷却システム(原子炉冷却材浄化設備、崩壊熱除去、炉心隔離冷却システム、非常用液体冷却システム、緊急炉心冷却装置を構成するその他のシステム)を有しています。そのうちのどれがいつ故障したのかは現時点では明らかではありません。

今回は電力喪失によって冷却能力のほとんどが失われていました。そのため、運転員は残された冷却システムだけで出来る限り熱を除去しなくてはなりませんでした。しかし熱生成が熱除去のペースを上回れば温度が上昇し、水は沸騰してどんどん気化して圧力が上昇し始めます。そうなると、最優先すべきなのは燃料棒の温度を1200℃以下に保ち燃料棒の安全性を維持しながら圧力を管理できる範囲のレベルに保つことです。システムの圧力を管理できるレベルに保つために、蒸気(および格納容器内に存在する他のガス)は時々放出しなければなりません。このプロセスは事故時に圧力が対処できるレベルを超過しないように抑えるのに必須であり、原子炉圧力容器と格納容器はいくつかの圧力開放バルブを備えるよう設計されています。したがってこの時点から、圧力容器と格納容器を無傷で維持するために、運転員は時々蒸気を放出(訳注:ここにvent=ベントという動詞が使われています。官房長官の記者会見などで何度も聞いた単語ですね。)して、圧力を制御し始めました。

上述のように蒸気と他のガスが放出されました。それらのガスの一部は放射性核分裂生成物ですが、ごく少量しか含まれていません。作業員は放射性ガスを統制のとれたやり方(フィルタと気体洗浄装置を通したごく少量)で環境中に放出を始めたので、サイト上の作業員にさえ、安全上の重大なリスクを与えませんでした。この手順はその放出量が極めて微量であり、逆に蒸気を放出ずに格納容器の健全性を損なうような潜在的なリスクと比較した場合には、妥当なものだと言えます。

この間に、可動式の発電機が搬入され、ある程度の電力が回復しました。しかしながら、原子炉に注水されるよりも多くの水が沸騰し、排出されたため、残存している冷却システムの冷却能力が奪われていきました。蒸気を排出するプロセスにおいて、水位は燃料棒の最上部よりも低いレベルまで低下したかも知れません。いずれにせよ、いくつかの燃料棒被覆管の温度は、1200℃を超過し、ジルコニウムと水の間の反応(訳注:下図)を引き起こしました。この酸化反応は水素ガスを生成し、水素ガスが放出された混合蒸気と混ざり合いました。

[http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/a/arc_at_dmz/20110317/20110317031335_original.jpg:image]

これは想定されたプロセスですが、運転員は燃料棒の正確な温度や正確な水位を把握できなかったため、生成された水素ガスの量を知ることは出来ませんでした。水素ガスは極めて引火しやすく、十分な量の水素が空気と混ざると、空気中の酸素と急速に反応して爆発を生じます。排出プロセスのどこかの段階で、十分な量の水素が格納容器の内部に貯まり(格納容器の内部には空気はありません)、そして水素が空気中に排出されたときに爆発が発生しました。爆発は格納容器の外部で発生しましたが、原子炉建屋(防御機能はありません)の内部および周辺です。これに続いて同様の爆発が3号炉でも発生しました。爆発は原子炉建屋の天井と壁の一部を破壊しましたが、格納容器や圧力容器にはダメージを与えませんでした。これは予想外の事態でしたが、爆発は格納容器の外で発生し、原子力発電所の安全構造に危険を及ぼすものではありませんでした。

今回は、いくつかの燃料棒被覆管が1200℃を超えたため、ある程度の燃料損傷が発生しました。核物質それ自体は未だ無傷でしたが、それを覆うジルコニウムの殻は溶けて機能を失い始めました。この時点で、放射性核分裂生成物(セシウムヨウ素、等)が一部混ざりはじめました。少量の放射性物質セシウムヨウ素)が大気中に放出され、蒸気中に検出されたことが報告されています。

原子炉の冷却が充分に行われなかった結果、原子炉内の水は蒸発し、水量は減少していきました。技術者は燃料棒の水面からの露出を避けるために海水(中性子吸収体としてホウ素を添加)を注入することを決めました。原子炉は停止していましたが、原子炉が確実に停止した状態を維持するよう念のためにホウ酸が加えられました。また、このホウ酸は、水中の残留ヨウ素の一部を逃げられないよう捕まえる副次的な効果を持ちます。

冷却システムに利用される水は蒸留され脱塩された水です。純水を利用する理由は通常運用において冷却水による腐食の可能性を抑えるためです。海水注入は、事故から復旧するときの浄化処理をより困難にしますが(訳注:現状では廃炉確定なのでいらぬ心配だろう)、炉心を冷却することはできます。

この海水注入プロセスによって、燃料棒の温度がダメージが生じないレベルまで下がりました。原子炉は長い間停止されていたため、残留熱は極めて低いレベルまで低下しており、プラント内の圧力も安定し、放出作業ももはや必要なくなりました。

記事掲載後の更新

3/14 8:15pm ESTの更新

東電のプレスリリースによれば現在1号機と3号機は安定した状態にありますが、燃料への損傷の程度は不明です。現地時間3/14 2:30pmの時点で福島第一原発正門における放射線の観測値が231μSv(マイクロシーベルト、2.31mrem=ミリレムに相当)まで下がっています。

3/14 10:55pm ESTの更新

2号炉で起こったことに対する詳細は未だ流動的です。2号炉に関して起こったことに関する後続の記事(訳注:日本語訳が済んでいません。)はより最新の情報を含んでいます。放射能レベルは増加していますが、どのぐらいのレベルまで達したかは不明です。

訳者後書き

この記事は、Google Docsを使って複数人で同時に翻訳と校正を進めました。よく打った文字が消えたり日本語が打てなくなったりしますが(笑)、それでも実用的な共同作業ツールとして機能しているWebアプリに、プログラマとして改めて感心しました。

一緒に翻訳を進めた匿名ユーザの方々、翻訳だけでなく図表を作ってくださった @hoshimi_etoile さん、元記事翻訳者でもある @LunarModule7 さん、また、校正してくれた平山さんに感謝します。後続記事の下訳を作っていただいた @tyamadajp さんにも感謝します。こちらは周知の話が多そう、とのことですが、機会を見てまとめ直してアップします。次の記事に掲載しました。

更新履歴
  • 11/03/17 11:30 表記の統一、細かな誤訳の修正
  • 11/03/17 11:50 福島で起きたことの冒頭にマグニチュードについての説明を追加
  • 11/03/17 18:55 冒頭で当記事が最新の情報をカバーしたものでないことを明記、不適切な訳注を削除、訳語を変更
  • 11/03/17 19:40 マグニチュードとエネルギーの関係が誤っていたので訳注を追記