ワークショップ(WISS2010, 裏磐梯)
昨年12月1-3日のことになりますが、裏磐梯で開かれた国内学会のワークショップで、修士課程を通して取り組んできた研究成果を発表しました。上の写真画像のリンク先は発表の様子を録画したものです。18分45秒くらいから喋っています。本件に関しては今年1月にシンポジウム(第51回プログラミング・シンポジウム, 箱根)でも経過を発表したのですが、当時は研究としての貢献がまとまっていなくてぼろぼろでした。今回は比較的綺麗にまとめられてよかったです。
この記事では、すごく大ざっぱに発表内容を紹介してから、学会自体の雰囲気についても触れてみたいと思います。
Matereal
発表では、僕が作ってきた「Matereal」というツールキット*1の概要と利用例を紹介しました。発表資料や関連するデモ動画などはWISS2010特設サイトに置いてあります。
Materealは、比較的安価なハードウェアセットアップを用いて、インタラクティブなロボットアプリケーションを開発しやすくするツールキットです。ロボットを用いた研究はお金がかかるのが普通で、研究プロジェクトが大規模になりがちなんですが、実際に使えるロボットを開発するうえで、もっと多くの人がアプリケーションをプロトタイピング*2できるようになったほうがいいのではないか、というのが根っこの問題意識です。
Human-Computer Interactionの研究ではコンピュータや携帯端末の新しい入出力デバイスをプロトタイピングするPhysical Computingという分野が盛り上がっていて、それを支えているのがPhidgetsに始まる様々なプロトタイピング用のツールキットです。僕は、実用ロボットの研究開発についても、このようなプロトタイピング用ツールキットが一定の役割を果たせることを期待しています。ロボット関係ではすでに様々なミドルウェアやツールキットが提案されているのですが、基礎技術の研究開発に使うためのものが多く、プロトタイピングを目的にしたものはありませんでした。…詳細な比較は論文本文や公式サイト内のWikiに譲ります:)
Materealの機能は大きく分けて三つあります。
- Localization
- Webカメラと視覚マーカを用いて、ロボットと物体の床面上での二次元座標を取得できる。
- Locomotion
- 二次元座標系上にベクトル場を定義することでロボットに対して高レベルな移動指示が出せる。とくに、指定した位置への移動や物体の運搬、他ロボットの追跡といったメジャーな移動指示を実現するベクトル場の定義はプリセットで用意されている。
- Workflow management
- 複数のタスク*3を指定した順序(ワークフロー)で実行させられる。ワークフローを可視化してデバッグに活用することもできる。
これらを用いると、下に示したようなアプリケーションが作れます。なお、この二つ以外にも様々なアプリケーションのデモ動画へのリンクがWISS2010特設サイト下部「Materealの活用例」に掲載されています。
簡単な例。机の上で、チョコの箱を手元に持ってきてくれます。
凝っている例。杉浦さんの研究。指示したとおりの手順で料理をしてくれます。
Materealは、組み込みの機能だけでは、平面上で動きまわる小型ロボットを用いた比較的単純なタスクをこなすアプリケーションしか実装できません。それでも、Materealが提供する高レベルなAPI(Application Programming Interface)セットは、より複雑なタスクをこなせるロボットを用いたアプリケーションのプロトタイピングにも活用できる将来性があります。したがって、ロボットアプリケーションのプロトタイピング用ツールキットの研究に先鞭をつけることができたと考えています。
WISS
最後に、発表の場となったWISSについて紹介しておきます。
WISSはWorkshop on Interactive Systems and Softwareの略で、Human-Computer Interaction分野では国内最大規模のワークショップ≒学会です。写真は…僕は写ってないんですが、楽しげな雰囲気が伝わるかと思ってでんでんかむしさんのブログから借りてきました。
もともと「伝統的に革新的」と言われるだけあって大変面白いワークショップで、投稿論文をもとに著者が発表する昼のセッションでは、発表を聴講している参加者が発言できるチャットシステムなど議論が促進する仕掛けが充実しています。この仕掛けはWISS Challengeと呼ばれていて、有志によって毎年改善されており、今年はプレゼン資料の閲覧やTwitterとの連携といった機能が組み込まれた凝りに凝ったものでした。また、夜には、お酒を飲みながら会場の各所で半ばゲリラ的に始まる発表を聞いたり議論したりするナイトセッションが開かれます。泊まりがけのワークショップならではの取り組みですね。
今年は、とくに「三大改革」が実施されました。その一環で、論文に研究上の貢献とは別の気持ちを書ける「未来ビジョン」という欄が設けられ、発表でも、未来ビジョンを議論することが義務付けられました。僕の発表では未来ビジョンのところが一番盛り上がったので、改革の恩恵に与ることができたと言えます。既にある学会の論文の形式を公式に変えることは大変な労力を伴うと思うので、運営委員会の方々には心から敬意を表します。
なお、ツールキットMaterealの開発を通じて考えた未来ビジョンについては別に記事を書きます。