arc の日記

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MIT原子力理工学部による1、3号炉の水素爆発に関する解説

本記事は2つ目の翻訳記事で、元記事は日本時間3月16日1:51に公開されたものです。Google Docsを使って複数人で協力して和訳・校正しています。今回僕は直接翻訳していません。下訳を作ってくださった @tyamadajp さん、校正してくださった @shun_no_suke さんと @hoshimi_etoile さんに感謝します。翻訳の様子はGoogle Docs上の記事をご覧ください。

注意: この記事は福島第一原発の最新の状態を解説したものではありません。福島第一原発事故関連で日本語の良質な記事・ニュースソースをご覧ください。また、この記事のほかにも様々な記事が翻訳済みです。翻訳記事の一覧はMIT原子力理工学部による原子力発電の解説(翻訳)にあります。

目次

福島第一原発1号炉および3号炉の水素爆発に関する解説

両者の爆発原因は同じと見られます。原発で冷却系の損失や電源喪失が発生した場合、まず最初に試みることは原子炉の減圧です。これは圧力容器の安全弁を開放することで行います。すると水と水蒸気の混合物が圧力抑制プールに流れ込みます。この型の原子炉では圧力抑制プールは円環状(いわゆるドーナッツ型の技術的表現)に炉を取り巻いています。圧力抑制プールに吹き込まれることで熱い蒸気は液体に凝縮され、容器内の圧力を低いまま維持することができます。

圧力容器内の圧力は水と水蒸気の混合物を放出することで下がりますが、圧力容器内の圧力が低い時のほうが容器内により水を送り込みやすく、こうすることで燃料を容易に冷やし続けることができます。この手順は地震直後はうまく遂行されていました。不幸なことに、地震がとてつもない規模であったため、大規模な津波が同時に発生しました。この津波により設置されていたディーゼル発電機だけでなく電源設備までが停止してしまいました。そして、ポンプを稼動させ熱を除去するための電源がなくなり、圧力容器内の水の温度が上昇を始めたのです。

炉心(訳注:圧力容器内の燃料集合体群。燃料集合体については前の記事をご覧ください。)の水温が上昇し、一部の水が蒸発し始めた結果、ついには燃料棒が水面上に露出しました。燃料棒はジルコニウム合金の層で覆われています。ジルコニウムが高温になり、さらに酸素が存在していると(水蒸気から酸素が生じます)、反応を起こして水素を生成する事があります。水素は濃度が4%を超えた状態で酸素と混合すると極めて発火しやすくなりますが、水蒸気が過剰のときは発火しません。

時間が経過すると、格納容器内の圧力は通常値をはるかに超えてしまいます。格納容器は放射性物質の拡散を止める最大の防壁なので、この破損は何があっても絶対に許されません。このような場合、圧力を制御下に置くため、蒸気の一部を大気に放出することが対応計画で決められています。

この後に何が起こったのかの確証はありませんが、以下の経過で爆発に至ったというのが有力な説明です。まず、蒸気の放出経路として、格納容器の上側、ただし建屋内の空間に通じるパイプが選ばれました。この時点で水素ガスと蒸気は建屋上部において空気と混合しました。この段階では水素と(空中の)酸素は大量の蒸気と混合しているため、まだ爆発しません。しかし、建屋の上部は外部の天候の影響で格納容器内よりもかなり低い温度になっています。蒸気は水へと凝縮し、水素と空気の混合物の濃度が増していきました。これがある程度の時間続いた後、何らかの発火要因(稼働している設備のスパークなど)で爆発が起きた。これが1号、3号炉で起きたのではないかと思われます。これで建屋の上部は著しく破損しました。しかし、格納容器自体には損傷は見られませんでした。

爆発の直後には放射線レベルの一時的な急上昇がありましたが、これは蒸気中の放射性物質によるものです。ジルコニウム合金の被覆管が反応して水素を生成した際、若干の核分裂生成物が放出されました。燃料中の放射性物質の大半はそのまま燃料中に留まるのですが、核分裂生成物の一部に希ガス(キセノン/Xeとクリプトン/Kr)があり、これらは合金層が侵食されるとただちに燃料棒から漏出します。(訳注:段落が長かったのでここで切りました。)

幸いなことに、キセノン・クリプトンともに深刻な放射性物質ではありません。両者とも化学的に安定で、人体や植物と反応しないからです。しかし、この他に若干のヨウ素(I)とセシウム(Cs)が蒸気に混入していた可能性があります。蒸気が建屋内に放出された際、Xe/Krだけでなく、若干のI/Csも漏れていたのでしょう。この結果、建屋の屋根が破損したとき、建屋内にあったこれらの放射性核種も放出されました。これが放射線レベルを急激な上昇させた原因です。高くなった放射線レベルは、その後急速に低下しました。なぜなら、格納容器そのものには損傷がないので放射性核種の放出量が増えず、そして放出された放射性核種が急速に崩壊・拡散したためです。

2号炉の爆発

その後の情報によると、2号炉の格納容器は破損している可能性があります。圧力開放バルブの不調から2号炉の圧力開放が正常に行えず、これが海水の注入および蒸気と水素の排気に問題を起こしました。燃料棒が2度、完全に露出したと報道されていますが、詳報を待っています。

4号炉の火災

地震津波の発生時点では点検のため停止中だった4号炉で火災が起きたと報道されています。その後消火されたとされていますが、これも詳報を待っています。