MIT原子力理工学部による「使用済み燃料プール」の解説
本記事は7つ目の翻訳記事で、元記事は日本時間16日午後1時20分に公開されたものです。前6つと同様にGoogle Docs上で作業が行われました。下訳を作成された @yoshi_mit さん、校正してくださった @LunarModule7 さん、 @PetitDarling さん、ありがとうございます。
更新履歴
- 11/03/25 16:30 @pie_ereさんの指摘を受け、該当箇所を修正
注意: この記事は福島第一原発の最新の状態を解説したものではありません。福島第一原発事故関連で日本語の良質な記事・ニュースソースをご覧ください。また、この記事のほかにも様々な記事が翻訳済みです。翻訳記事の一覧はMIT原子力理工学部による原子力発電の解説(翻訳)にあります。
目次
「使用済み燃料プール」とは
使用済み燃料とは、原子炉の運転に利用された後の燃料のことです。この燃料は、固体ペレットで燃料棒(訳注:燃料被覆管)に格納されているというところは未使用の燃料と似ています。唯一の違いは、使用済み燃料には核分裂生成物とアクチニドが含まれているということです。アクチニドはプルトニウムなどを含み(訳注:アクチニドは15種類の放射性元素の総称)、放射能があるため、遮蔽される必要があります。ちょうど運転停止中の燃料棒のように、使用済み燃料は崩壊熱を生成します。これは、核分裂生成物とアクチニドからの大半の崩壊放射能が、燃料の中で貯まって熱エネルギー(つまり、熱)に変換されるためです。その結果、使用済み燃料は冷却される必要がありますが、わずかな熱しか生成しないため、12時間以内に運転停止した原子炉内の燃料と比較すれば、冷却の程度はずっと低いレベルとなります。まとめると、(1) 崩壊熱が減少するまで燃料を冷却させ、(2) 放出される放射線を遮蔽する、ことを目的に、使用済み燃料は一定期間、保管されます。
これらの目的を達成するために、使用済み燃料は、水の入ったプールと、空気で燃料棒を冷却する大きなキャスク(訳注:キャスクは前の記事にも出てきました。水を張っていない貯蔵区域のことを表す専門用語です。)の中に保管されます。プールはしばしば原子炉の近く(BWR Mark-1の格納容器を格納する構造体があるフロアの上階)に設置されます。プールはとても大きくて、40フィートもの深さになることが多く、設計によってはさらに深い場合もあります。プールは、ステンレス鋼に骨組みされた厚いコンクリートでできています。使用済み燃料は、まとめてプールの底のラックに置かれるため、燃料頭部から水面までは約30フィートの水に覆われます。さらに、中性子の連鎖反応を絶対に開始させないために、ホウ素を含んだプレートで分離されることもよくあります。燃料内部の利用可能なウランは劣化しているため、そのような反応が起きる可能性はずっと小さくなっています。プール内の水は、使用済み燃料を冷やすのに十分であり、プール内の熱交換器を通じて熱が排出されるため、プールはほぼ一定の平均温度に保たれるはずです。水の深さもまた、使用済み燃料から放出される放射線を、人間がプール周辺で安全に作業可能なレベルまで遮蔽することを保証しています。
通常の運転環境では、使用済み燃料は、プールの中で永遠に保管することが可能です。余剰の崩壊熱を取り除くために冷却システムが設置され、動作しており、同時に水も効率的に放射線を遮蔽する役割を果たしています。プールに保管可能な燃料の量はプール自体の容量によって変わりますが、たいていの使用済み燃料プールは、多数の炉心を一度に保管できるように設計されます。
原子炉が停止される燃料補充作業の間は、原子炉と使用済み燃料を結ぶ全ての区画が放射線遮蔽のために水で満たされ、燃料は一単位ずつ原子炉から使用済み燃料プールへ移動され、そこに整列させられます。燃料補充は12ヶ月から18ヶ月ごとに行われ、1度の燃料補充のための運転停止の間、最大で3分の1の炉心内の燃料が置き換えられます。作業員の放射線被曝を避けるために、全ての操作は、水の中のクレーンと特別な装置を用いて遠隔から行われます。
使用済み燃料は、使用済み燃料の容量と規制に応じて、通常は数年間、使用済み燃料プールに保管されます。その期間の後、使用済み燃料は、原子炉の建屋の外にある場所に設置されたコンクリート製のキャスクの中で、通常は乾燥して保管されます。
もし、プールに水漏れや熱交換器の故障があった場合、プール温度は上昇します。これが十分長い間続くと、水は蒸発し始める可能性があります。さらに蒸発が続くと、プールの水位が燃料棒の頭部より下がり、燃料棒が水面上にさらされる可能性があります。空気では使用済み燃料から十分に排熱できないため、燃料棒が加熱を始めて、問題を生じます。燃料棒が十分に熱くなると、ジルコニウム被覆が水蒸気と空気で酸化して、水素を放出し、そこに引火することがあります。これが一度起こると被覆が破れてしまう可能性が高く、ヨウ素、セシウム、ストロンチウムといった放射能を持つ核分裂生成物が発生します。注意すべきは、それぞれの事象(冷却システムの故障、プールの水の蒸発、燃料棒の空気中での異常加熱、ジルコニウム酸化反応)が事故につながるには、これらの事象が十分に長く継続する必要があるため、結果的に深刻な事態に至る確率はかなり低くなっています。
仮に起こった場合にもっとも危険なことは、使用済み燃料プールの周囲に頑丈な格納構造(原子炉建屋のような構造)がないことです。使用済み燃料プール自体はとても頑丈な構造である一方で、各プールの上の屋根はそれほど強くなく、破壊される可能性があります。すなわち、プールの表面が外部環境に晒される可能性があります。水が燃料を覆っている限り、これは外部環境に直接の脅威になりませんが、仮に火災が起きると、核分裂生成物が大気中に拡散される可能性を防げません。しかし、水位が燃料より高い位置に保たれていれば、大規模な拡散の脅威は低くなります。